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最初に会った時に思ったのは"旨そう"だった。
フワフワした毛並みと長い耳、大きめの瞳と小さな尻尾。
そしていつも小さく震えている体。
狼である自分の正体を隠している俺にとって、兎のアイツはたんなる"獲物"としての認識しかなかった。
――…
―――…
紫苑「こんにちは、吉田さん」
吉田「おう。いらっしゃい紫苑」
…また来やがったな…
この顔に火傷がある白髪の男の名前は"紫苑"。
偶然にも俺と同じ名前。
俺はこの男がいけすかなかった。
何故なら…
紫苑「吉田さん…」
吉田「こ、こら…ここ玄関だぞ//
せめて扉閉めてからに…//」
紫苑「ただ抱き締めたいだけなのに…駄目ですか?」
吉田「ぅ…;//」
紫苑「それに、誰も見ていませんよ…。
だから、ね…?」
吉田「ぁ…紫苑…」
2つの顔が徐々に近づいていく。
「―――――…わん!」
紫・吉「…!!」
あと少しで顔がくっつきそうだった時に俺は小さく声をあげた。
吉田「シオン…?」
シオン「わん!」
驚きの声を漏らす飼い主にもう一度小さめに吠える。
紫苑「お前か…。いいところだったのに邪魔しやがって…」
吉田「し、紫苑…っ//」
シオン「…」
当然だ。
わざとやってるんだもの。
俺の大切な吉田さんを困らせる奴は、この俺が許さねぇ
俺は吉田さんに飼われている狼、名をシオン。
怪我をしてるところを拾われてからは、その恩を返す為にずっと犬のふりをしている。
俺がもらった名前と同じこいつはほぼ毎日のようにここを訪れてはさっきみたいな言動を繰り広げる。
そしていつも吉田さんを困らせてる同じ名前のこいつを、俺は好きになれなかった。
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