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吉「……ぁ」
ここは楼閣。
少年達が美しき着物で自らを飾り立て、訪れる客達をその身をもって楽しませる場。
その一室で、客の盃に酒を注いでいた花魁・吉田は窓から見える夜空を見つめながら声を漏らした。
紫「!…どうしました?」
吉「…雨だ…」
確かに、三日月の淡い光が照らす紫陽花の葉を打つ雨音が闇夜の中に響いている。
紫「本当ですね…。月が出てるのに珍しい…」
吉「月…隠れないといいけど…」
紫「どうしてです?」
吉「だって…真っ暗だと寂しくなるだろ…?
俺…雨、嫌いなんだ…」
寂しそうに顔に影を落とす吉田を見つめながら紫苑は注がれた酒をぐいと飲み干すと、盃をお膳に置いた。
紫「なら…俺がいてあげますよ」
吉「ぇ…? …Σぅわッ!?」
とたんに引き寄せられ、互いの顔が迫りあったかと思うと、腰に手が回される。
紫「雨の音なんて気にならなくなるくらい、俺が愛してあげます…。
それなら寂しくないでしょう?」
吉「Σっ!!// …紫苑…//」
紫「貴方は綺麗だ…」
痺れるような言葉と共に紫苑の手のひらがそっと頬を撫でる。
紫「まるで夕焼けのような瞳と髪…。
俺を惹き付けて離さない…」
吉「…誉めすぎだぞ、紫苑…//」
恥ずかしそうに、だがどこか嬉しそうに微笑みながら頬に添えられた手に自分のそれを重ねる。
吉「…じゃあ、忘れさせてくれ…。
雨の音なんて聞かせないで…
俺を紫苑でいっぱいにして…」
紫「えぇ…満たしてあげます、貴方の奥底まで…」
そう囁いた瞬間、二人の唇は重なりあい、床に倒れこむと互いを抱き締めあった。
――今この時だけでもいい…
俺はお前の、
"唯一"になりたい…―――
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