第二話

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フランツ大司教は書斎の窓から遠くを眺めていた。 夕闇迫る空が、悲しかった。 突然、扉を叩く音が響き、男の声が聞こえた。 「誰じゃ」 「自身の息子の声も忘れられましたか?」 ゆっくりと扉が開き、息子ゴルドーが神官と供に部屋に入って来る。 「……何用じゃ」 「相変わらず素っ気ないですな」 「用があるなら、さっさと申せ」 「……イシュタイルの今後について、大司教様にお願いがございます」 「!」 思いもよらないゴルドーの言葉に、驚きと喜びがフランツの顔を僅かに綻ばせた。 『大司教の姿を見て育ったのです。イシュタイル教がどうあるべきか、ご子息にも必ず伝わっております』 聖竜将軍との会話を思い出す。 「お前がイシュタイルの今後の何を考えているのか、申してみよ」 フランツはその心とは裏腹に、厳しい口調で返す。 息子よ。 思えばお前には、いつも必要以上に厳しくしてきた。 自分の跡を継ぎ、立派な大司教になって欲しいと思えばこそ、あえて厳しく接してきた。 お前に一体どのくらい伝わっていただろうか。 民あってのイシュタイル教、宗教である。 ゆえに、時としてイシュタイル教にとって不利益になろうとも、民にとって有益であれば、民の為に動くべきである。 民への思いやりの積み重ねが、今後のイシュタイル教の礎になっていくのだ。 「……さい」 待て、何と言ったのだ。よく聞こえない。 「……」 こ、声が……出ない? 「!?」 背後に誰かいるのか?背筋が凍る、この恐ろしい邪気は一体何だ? ゆっくりと視線だけを…視線だけが、得体も知れぬ恐怖の正体をとらえた。 ゴルドーと来た共に神官?……いや違う。 この者は神官などではない。 なんという残忍な眼光だ……。  身体が、身体が動かない。いや、動くことを拒んでいるのか……。 息子よ……これがお前の出した答えか……。 歪んで行くゴルドーの姿は、どこか悲しげに微笑んでいる様に見えた。  もう何も聞こえない。自身が倒れる音さえも……。 目の前がやがて闇に閉ざされる。 息子よ…… 最後に……たかった………………。
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