2学期・前半

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「で、あんたは」 と、母さんは唐突に矛先を俺に変えた。 「一体何をやらかしてクビになったの?」 「それ、は……――」 俺が不用意に問い詰めた言葉が朱莉の母親の精神を刺激して、発狂させた、か、ら――? 事情を知らなかったとは言え、酷いことをした自覚がある。 だが、言い淀んだのは罪の意識のせいだけではなく、不意に浮かんだ違和感のせいだった。 あの時、朱莉が母親の叫びを聞いて駆けつける前に何があったのか、彼女は知らないはずではないか。 母親に対する危険因子、とみなされての排除――罰としての、懲戒解雇と。 同時に、俺を巻き込まないため――あの時彼女の無言のSOSに応えられなかった無力な俺を許し、解放するための、契約解除。 突然クビにされたのには、2つの意味があるのだと思い込んでいた。 腑に落ちない違和感の正体、は――。 チラと朱莉の様子を盗み見るつもりが、申し訳なさそうに、何か言いたげにじっと見つめてくる瞳と目が合った。 「……!」 咄嗟に片手で覆う様に口元を隠してその視線から逃れる。 コイツ、俺が『たまたま』あの場に居合わせたと思い込んで……! 朱莉からしたら俺は、ただ巻き添えを食らった『被害者』? 違う、少なくともあの時の『発作』は、明らかに俺のせいなのに。 俺は巻き込まれたんじゃない、自ら立ち入り禁止区域に踏み込んで、土足で荒らしたんだ。 そこに地雷が埋まっているなんて予想すらしてなかったとは言え、それでも俺は、あの時自分の意思で『KEEP OUT』の黄色いテープを破ったと言うのに。
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