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気付いてしまった途端、瞬時にいろんな感情がない交ぜになって溢れ出る。
処理が追いつかなくなって、馬鹿みたいに固まった俺の視界は定まらずにぼやけた。
軽々しく口先だけで助けたいなんで言っておいて、守られていたのは自分の方だった。
最初のSOSを見て見ぬフリをしたあの瞬間に、俺は彼女の拠り所ではなくなっていた。
誤解を解かなければ、自分の罪を告白しなくては。
黙っているのは卑怯だ。
分かっている、だけど――朱莉にそれを知られるのが、怖い。
自分自身が壊れかけたギリギリの状況で、それでも他人に……俺に頼らずに、それどころか切り離そうとした朱莉の、強さと、そして優しさ。
俺自身の、不甲斐なさ。
教師のくせに――生徒なのに……いや、もう違う。
もう、なんの繋がりもないはずだ。
なんでこうなっている。
どこで間違った。
どうするべきなんだ……いや、どうしたいんだ、俺は。
まとまりなく溢れてくるごちゃまぜの感情に混乱した。
今、言うべきことは、一体何だ。
何の話をしていたんだっけ。
朱莉の家の事情――違う、最後は、母さんの質問。
そう、じゃない。
今一番、言わなきゃいけないのは――、
「……ごめん……ッ」
破綻した思考回路、脳からの命令を無視して口から漏れた声に、朱莉は「えっ」と小さく戸惑いの声を返した。
「もう逃げない。助ける。だから……頼れよ……!」
他の誰でもない、俺自身の声だった。
絞り出したような掠れた情けない声が耳に届いた時、漸く頭が追いついた。
朱莉のためでも、彼女の母親の為でもなく、ただ俺が、俺自身の欲求のままに。
知識も、経験も、なんの力も持ち合わせない、クソの役にも立たないだろう俺が。
彼女を助けたいと、頼って欲しいと願っている。
それが、それだけが、俺の本心だった。
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