2学期・前半

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朱莉はその言葉を噛みしめるように、無言で目を閉じる。 その顔に魅入った俺は腑抜け。 親の前では何とも無力で、かける言葉もなく、出る幕もなく。 それでも俺は、今日ここに、母さんがいてくれて良かったと心底思った。 しばらくして目を開けた朱莉は、憑き物が落ちたようなすっきりした顔をしていた。 ほんの数時間前、自宅を目前にして背中から憂鬱を滲み出していた彼女とは全然違う。 「帰らなくちゃ。お昼には帰るはずだったのに連絡してないから、きっと心配してる」 さして慌てた様子でもなく朱莉は言ったが、これに動じたのは母さんだった。 「ま、そりゃ大変!」 無言で俺に向けられた射るような視線はどうやら俺が彼女を『誘拐』してきたことを責めているようで、返す言葉もなくただ頭を掻いて誤魔化す。 「送ってくわ。お母様が興奮なさらないようにきちんと説明するから、安心して」 言いながら既にテーブルを片し始め、俺がその言葉で立ち上がりかけると「あんたは留守番」とばかりに手で制す。 何で留守番!? こればかりは異論を唱えたいところだったが、いつになく力のこもった無言の視線がそれを許さなかった。 何か考えてのことなんだ、きっと。 俺のことを『言ったことはやる男』だと称した母さんこそ、普段は何もしないけど、やると言ったことだけは必ずやり遂げてきた人だから。
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