2学期・前半

29/43

56人が本棚に入れています
本棚に追加
/151ページ
母を先頭に、朱莉、俺の順で玄関に向かう廊下で、 「ちゃんとテキトーに誤魔化すから、テキトーに話合わせてね」 ……聞かなきゃ良かったそのセリフ。 本当に任せて良いのか、母よ。 だが、結局俺は、玄関までの見送りにとどめた。 「任せとけ」「今はあんたは着いてくるな」と、母さんの背中が言ってる気がしたから。 「朱莉」 最後の最後、母さんの後について家を出ようとした彼女を呼び止める。 「……困ったら、いつでも呼んで」 「センセ……あ、また!」 つい出てしまう『センセイ』という呼称に、朱莉は慌てて口元を覆った。 そんな仕草も可愛くて、気付いたばかりの気持ちが場違いに膨れ上がる。 彼女がそう呼びたいのなら、それでも良いと思ってしまった。 「――迷惑じゃ?」 「まさか」 ここに来て今さらなことを言うから思わずふっと笑いを漏らすと、彼女は安心したように目を細める。 それから、彼女にいつもの強気な目が舞い戻った。 「結構暇人なのね、センセー」 「お前なあ」 肩を揺らしてクスクスと笑う朱莉を見ていたら、もうどう思われたって構わないと思う。 暇人上等だ。 「お前が呼んだらいつでも行ける様に、暇にしておいてやるよ」 「!」 少しだけ虚勢を張って、上から目線で伝えたのは本心。 だけどそれは、朱莉のためじゃなくて、俺がそうしたいから。 だから、誰かを頼らないといけない時には、どうか俺を呼んで。
/151ページ

最初のコメントを投稿しよう!

56人が本棚に入れています
本棚に追加