2学期・前半

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「センセーだって、――大学、あるじゃない」 「俺、単位余裕だからいつでもサボれる」 「……いつまでも無職じゃ」 「ハンバーガーならいつでも奢ってやれるけど?」 素直に「はい」って言ってくれればいいのに、今度は俺を『暇人』じゃなくしたいのか。 大学よりもバイトよりも、お前を優先すると言ったら迷惑か? 「新しい生徒……」 「もうやらない」 「えっ!?」 家庭教師の話になった途端にきっぱりと言い切った俺に、朱莉は目を丸くして見せる。 「家庭教師は、もうやらない。お前が、最初で最後」 「なんで……」 困ったように目を泳がせる彼女の様子には、お門違いの自責の念が滲んでいた。 ああ、どうにも上手く伝わらない。 「なんでかな」 もどかしいのに、また、思わず笑いが漏れた。 「もう、お前でお腹いっぱいだから。新しい生徒とか、もういらない」 「な……何それ」 ぱちぱちと目を瞬かせる彼女は、意味なんか分かってないんだろう。 それでいい。 俺の気持ちを押し付けて、余計に困らせるつもりはないから。 「俺はキャパがちっせーからな。他の客なんか受け入れたら船が沈んじまう」 「お、重たい客、降ろせばいいじゃない」 「馬鹿。途中下船なんかさせねえよ。……って、さっき母さんが言ってたろ」 「そ、それとこれとは!」
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