2学期・前半

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『――大人の介入なしに、解決する問題ではないと思うので』 そう分かっていたはずなのに、頼れよと吐き出した俺に対して彼女は言った。 『そのつもりで……、着いて、来たよ』 その気持ちに応えてやりたい。 なんの権限も力も持たない、無力なこの俺にでき得る方法で。 俺を『センセイ』と呼ぶ彼女のために、しまい込んだ気持ちから来るエゴなんかでは決してなく、元家庭教師の立場からか、もしくは彼女の悩みを知る一友人の立場からでも良い。 彼女の愁いを解決してやること。 支えになってやること。 それが最優先事項。 俺の夢とか気持ちとか葛藤とか、そんなつまらないものは、全部後回しだ。 彼女は俺の小さなボロい船を求めて来たのだし、その頼りない船は、もう出航してしまったのだから。 大切な乗船客を、目的地まで無事送り届けるのが俺の役目。 横から襲い来る荒波を蹴散らすように立ちはだかる母さんを想像して少し笑った。 俺はただ船を漕ぐだけで、障害物を全部母さんが取り除いてくれるような気さえしてきて―― 「え、」 もしかして俺って、結構なマザコンじゃねえ? 初めて思い至ったその考えを打ち消すように頭を振る。 大分気持ちの整理がついて落ち着いていた。 ふと時計を見ると、いつの間にか朱莉と母さんが家を出てから2時間近くが経過しているのに気付いてガバッとベッドから跳ね起きる。 「……遅くねえ?」 朱莉を送り届けて、とっくに帰ってきているはずの母さんの靴があるべき玄関には、俺のスニーカーだけが並んでいた。
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