2学期・前半

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何か――問題が? 俺は自分の母親を過大評価して信用しすぎたのだろうか。 こみ上げる不安に耐え切れなくなって、衝動的に携帯のメモリから母さんの番号を探し発信する。 母さんに掛けるのは実に大学の合格発表以来だったが――、耳元には虚しくコール音ばかりが響き、それでも粘っている内に留守電に切り替わった。 焦る。 無意味に自室とリビングを行ったり来たりしながら、もう一度母さんに掛けたがやはり出ない。 手は勝手に別のナンバーを検索した。 登録だけはされていたのにも関わらず、一度も電話もメールもしたことがないその名前が表示された時、少しだけ心が跳ねた。 携帯の画面に、汗が落ちた。 彼女からたった一度だけ来たメールは、家庭教師の無期限休暇を言い渡すものだったと苦い記憶が一瞬過ぎる。 彼女に……電話を? もし今彼女の家で、彼女の母親に何かが起きていて、そのせいで母さんが電話に出られないのだとしたら当然朱莉だって出られるわけがない。 そんな時に携帯を鳴らす無神経さ。 だがこのまま、何も分からずにやきもきとただ待っていられるほど俺は大人じゃない。 一度悪い方へ向かってしまった想像は膨らむばかりで、いつ終わるかも分からないままその不安感に耐え続けられそうもない。 焦燥感。 何かがあったのなら、助けに行きたい。 何が出来る、わけでもないのに。 『電話をかける』表示の上の親指に、あとほんの少し力を込めれば。 この期に及んでそれが誰のための行為なのかが分からなくなって、一旦携帯を握りしめた手を下ろし大きく息を吐き出した――その時。
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