2学期・前半

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ヴヴ、と微かな音を立てて手の中の携帯が振動し、滑稽なくらいに飛び跳ねた。 電話……母さん? 「ッ!」 確認した携帯の小さな画面に息を呑んだ。 表示された名前――『瀬戸朱莉』。 「――もしもし?……大丈夫かッ!?」 慌てて着信に応えた声は、無様な程に上擦った。 『……センセー?』 電波を介して少しだけ変換された彼女の声が聴覚を直接刺激して、何故か抉られたように心臓が痛み、携帯を僅かに耳から遠ざける。 「朱莉?……大丈夫か?」 『うん。あの……、センセーの、お母様……』 言い淀む彼女の声に、また不安が膨らむ。 やはり、何か問題が。 「まだ帰って来ない。そこに?」 短く聞いて、焦る気持ちを抑え説明を待つ。 『あ、私、今自分の部屋で。あの……下に居るんだけど……』 まさか、いきなり直球勝負して朱莉の母親を発狂させてないよな!? それじゃ俺の二の舞じゃねえか! だが、耳から離した携帯からは聞き取れない程度の微かな声が漏れ聞こえるばかり。 気を取り直して携帯を寄せ耳を澄ませると、それは彼女の押し殺すような 『……ふふっ』 ……笑い声、だった。 「え、ちょっ……何があった?」 『あは……すみません。さっきまで私も一緒に下にいたんだけど、センセーのお母様が電話かけ直してやってくれって言うから』 と、ようやく彼女は要領を得た説明を始め、このタイミングで電話が来た理由を教えてくれた。
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