2学期・前半

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「じゃ、家庭教師、復帰するの?」 「あ、いやそれはしない」 バタバタが落ち着いて俺がサークルに顔を出し、その帰りにいつものメンバーでファーストフードに立ち寄ったのは、9月も半ばになった頃だった。 大学の長かった夏季休暇も、もう終わろうとしている。 久しぶりに会った木嶋たちに、あの日から起こった瀬戸朱莉にまつわる色々を順を追って説明し終えたところだった。 ニキビになりそう、と言っておきながら、醤油バターパウダーをWでかけたポテトをひょいひょいと摘まみ食いながら、木嶋は不思議そうな顔をする。 「なんでぇ?朱莉ちゃんのお母さんが進藤くんのことそんな風に言ってたんなら、戻ろうと思えば戻れるじゃない」 「まあ……そうなのかもしれないけど」 と、曖昧に笑って誤魔化す。 ふうん、と納得いかなそうな微妙な相槌を打った木嶋は、醤油バター味の指をぺろりと舐めてからウーロン茶のストローに吸いついた。 木嶋が言う通り、こちらから言い出せば朱莉の家庭教師に戻れるのかもしれない。 だけどそれは、一体誰のためになるのだろう。 朱莉は俺が教えるまでもなく優秀な学生だった。 恐らく彼女には、家庭教師なんか必要ない。 以前のように瀬戸家に通うようになれば必然的に朱莉に会う機会が増えて、そうなれば当然、フタをしたはずの感情はまた頭をもたげてくるだろう。 そして、にも関わらず――『教師と生徒』という関係は、『過ぎ去った過去』ではなくなる。 それならば、今の距離感のままで。 一友人として、彼女の拠り所でありたい。 ――彼女の為、と言い訳しながら、俺の中には常に打算が付き纏う。
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