2学期・前半

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『センセー 母の反応は思いの外良かったんです 久しぶりのお出かけだと浮かれています』 『珍しく出かけたと思ったら 秋のツアーのパンフレットをいっぱい持って帰ってきました』 『父が帰ってきません 話が出来ない、と 母は少し落ち込んでいます』 『父にメールしました お母さんが待ってるから 早く帰って来てって』 『父から返信が来ました 仕事だから、だって』 『母は パンフと時計を交互に見て 浮いたり沈んだりしてる』 母さんが作戦に踏み出したその日、朱莉が学校から帰宅した頃と思われる夕方から、約1時間置きにメールを受信した。 俺はその都度返信する。 『そうか、まずは出だし好調!お母さんの気持ちも前向きになってるみたいで、良かった』 『へえ、相当楽しみにしてるんだな。それだけでも作戦の甲斐あったってもんだ』 『お父さんの帰りはいつも遅いんだろ?朱莉から連絡して、早めに帰ってきてもらうようにできないかな』 『返事、来た?早く帰ってきてくれるといいね』 『マジか。やっぱそう簡単にはいかないか。お母さんの様子はどう?』 『帰りが遅いって、いつもこんなに?でもさすがに、帰っては来るんだよな?』 俺がすぐに返信するのに対し、それに対する朱莉の返信や次の報告は、かなり時間を置いてから返ってきた。 必然的に、1回のラリーで1時間少々待たされながら、それでもかなり長い時間会話をしている錯覚に捕らわれる。 こんな時なのに、それは俺を僅かに浮かれさせた。 気持ちは抑え込んだ、はずなのに。 急くのを堪えて返信を待つ間、俺は母さんに状況を報告したり、飯を食ったり、親父に返信についてアドバイスを求めたり、風呂に入ったりした。 彼女も返信を考える間、飯を食ったり風呂に入ったりしているのだろうか、と、『心配』とは少し違う、妄想にふけったりもしながら。
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