2学期・後半

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家族宛ての手紙だったが、最初に開封したのは俺だった。 朱莉と俺の両親の4人で出かけた紅葉狩りで計画が遂行されてから、1ヶ月以上が経過していた。 朱莉とは10月中旬のその日まで密に連絡を取り合っていたのに、ぱたりと報告が来なくなって心配していたところだ。 連絡が途絶えてからは心配が募るばかりなのに、どうしてもこちらからは踏み込めなかった。 それはもちろん彼女の家の状況に配慮したからでもあり、そして――後ろめたさ、のせいでもあり。 会いたい。 声が聞きたい。 繋がっていたい。 ――つまりそんな欲をはらんだ想いが、膨らんだせい。 「お前の生徒、お前よりしっかりしてるんじゃないか」 手紙を読み終えた親父が、2本指で顎を撫でながら言った。 「良かったな、うまいこと動き出したみたいで」 「本当。隼人がしっかりしないから、全然情報回ってこないんだもの心配したわ!」 奪う様に手紙をさらった母さんは最後の方の文面に満悦そうで、 「お許しが出た。また瀬戸さんちの美味しいコーヒー飲めるわ!」 ……目的を間違っちゃいないか、と、聞いていて苦笑が漏れる。 朱莉はあれから父親とも、ゆっくりと時間をかけて話し合ったのだろう。 それから病院通いも始まったのならば、刺激を避けて落ち着いていた母親の症状に波が出ていてもおかしくない。 連絡が来なかったのも頷けたし、その空白を埋めて安心するに値する内容の手紙だった。
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