2学期・後半

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親父が瀬戸朱莉の『せ』の字も出さずにただ俺の将来についてだけ触れたから、俺も素直にそれだけについて考え、答えることが出来たのだと思う。 思えばこうして向き合って、真剣に将来について親父と語り合うのは初めてのことだった。 普段はあの母さんの勢いにおされてほとんど口をつぐんでいる親父を饒舌にさせているのは、俺が先ほど初めて見せてしまった反抗的な態度か、もしくは家では滅多に飲まない酒か。 それともこの状況――父子が初めて2人で酒を酌み交わすというこの状況が、父の気持ちも高揚させているのだろうか。 いずれにしても、この日の父は、よくしゃべった。 そしてそれに引っ張られるようにして、俺もまた、よくしゃべった。 親父のペースに合わせてちびちびと口に運ぶ泡の消えたビールは、ほろ苦くて少し沁みる、大人の味だった。 「家庭教師はもうやらないって?将来の夢のために始めたバイトだって聞いてたから、応援してたんだがなぁ」 教師になるという夢も、もう家庭教師をやるつもりはないということも、親父には話した覚えがない。 にも関わらず親父はそれを知っていて、ただ知っていただけじゃなく、考えてくれてもいたのだ。 ――驚いた。 そして、素直に感謝出来た。 俺に無関心ではなかった親父に、そしてこと細かく俺の様子を伝えてくれていただろう、母さんに。
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