2学期・後半

8/16

56人が本棚に入れています
本棚に追加
/151ページ
「塾、やろうかと。裕也――友達の紹介で、夏期講習だけ臨時でちょろっとやったとこ。誘われてる」 そうか、と短く一言。 それから安堵の笑みを浮かべた父は、またちびりと日本酒に口づける。 「お前は成績の心配がいらなくて楽だな」 ししゃもを突きながら、軽い口調で言う親父の目の周りは少し赤く染まっていた。 酔った様子はないから、体質なんだろうか。 こういう所、見たことがないから知らなかった。 「教員免許は取れるだろ。採用試験もお前なら受かると思ってるぞ俺は」 自信満々にそう言い切られると、こっちが恥ずかしい。 「なにソレ、親馬鹿」 照れ隠しでコップに3センチばかり残っていたビールを一気にあけると、すぐさま親父が瓶を取り、再びコップが満ちる。 「それで、お前自身は」 「……え?」 「教師になることに、何か不安はあるのか」 ――惑って。 黙って、気の抜けたビールの水面を見つめて。 ふ、と思い出して、コップに割り箸を突っ込むと、しゅわしゅわと気泡があがった。 「随分しみったれた親父くさい技知ってるじゃないか」と親父に小突かれて、自然とこぼれた笑いと同時に、俺の気が抜けた。 「あるよ、不安」
/151ページ

最初のコメントを投稿しよう!

56人が本棚に入れています
本棚に追加