2学期・後半

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「留学?なら――……」 2年の夏休み中約1ヶ月間、短期交換留学の制度がうちの大学にはある。 希望者は行先をアメリカ・イギリス・フランスから選択でき、俺はこの制度でイギリス行きを狙っていた。 留学にかかる費用50万については出世払いということで、母さんには相談済みだった。 だが、 「母さんから聞いてる。30人近くが一緒に留学して、たった1ヶ月?とても日常会話に英語を使うとは思えんな」 と、続く言葉を制されて黙る。 海外未経験のまま英語教師として教壇に立つのはあまりにも心許ないのでこの短期留学は良い経験になると思っていたのに、反対、ということなのか。 「じゃ……行くなって?」 「その程度なら、駅前留学で十分だ」 「!」 そりゃ、単純に語学の勉強という面だけ見ればそうなのかもしれない。 前半は寮暮らしで四六時中一緒に行く30人と行動を共にするし、後半のホームステイ先へも2~3人ずつの振り分けだ。 日本語から隔離される日はないだろう。 会話が全て英語になるのは授業中、くらいかもしれない。 だけど。 「言葉についてはそうかもしれないけど、俺は実際に英語圏の文化を見たい」 「うん、だから」 まだ半分以上残っていた2杯目の酒を、親父は一気に飲み干した。 それから提案されたのは、その可能性について俺が1ミリたりとも考えたことのなかった内容で。 親父の赤くなった目を、じっと探るように見る。 何故か、困ったように父の眉尻が下がった。 考えとけ、と、その大きな手の平で背中をぽんと叩かれて。 この日は互いに、結論を後伸ばしにした。
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