2学期・後半

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そりゃそうか、と、肩を落とす。 そんなにあっさりと解決するような生易しい問題なら、朱莉はあんなに苦しまずに済んだんだ。 「あいつ、元気そうだった?」 「何、連絡とってないの?」 意外そうな顔を見せてはいるが、母さんは本当は分かっているんじゃないかと疑ってしまう。 俺の気持ちも、俺からの連絡を絶っていることも、その理由も全部。 「そうだねぇ……」 と、少し斜め上に視線を流しながら朱莉の様子を思い返しているのか。 もしくはそういうフリなのかは――読めない。 前みたいに張りつめた感じはない、と聞かされて、ほっと力が抜けた。 母親の様子次第で、栞里の演技を続けたり、たまには朱莉自身に戻れることもあるのだとか。 そういう時間が、少しずつでも増えていけばいい。 朱莉のためにも、あの家族のためにも。 「そんなに気になるなら」 続く言葉が予想出来て、牽制の眼差しを向けると母さんは肩を竦めて口をつぐんだ。 追究も、咎められもしなかったけれど――あの日俺がマグを割ったことが、母さんを傷つけたのだろう、と思う。 翌日には食器棚に、新しい俺用のマグが並んでいた。 似たようなギャグ顔入りのマグだったけれど、同じのは見つからなかったようで。 俺だって自分の行動に驚いたし、ほんの少しだけ、傷ついている。 「あれさ、新しいコップ」 棚を指して。 「――ありがとね」 ごめん、の代わりにそう言うと、困ったような、何とも言えないくしゃくしゃの笑顔が返ってきた。
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