2学期・後半

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『センセー ご無沙汰しました。 元気ですか? 相変わらず貧乏暇人? 大分落ち着いてきました。 父と母と3人、週1回病院へ行ってます。 学期末テスト、英語と数学で100点取ってやりました。 2学期の成績、すごく上がりました。 母は喜んでくれました。 喜んでくれました。 先生、メリークリスマス』 メールが届いたのは、クリスマスイブの夜だった。 繰り返される『喜んでくれました』が、瀬戸朱莉の今を全て語っている。 ようやく希望の光を見出した彼女が、ついでにその光をクリスマスプレゼントとして俺にお裾分けしてくれたわけだ。 会いたい、と思った。 会って、顔を見て、直接言ってやりたい。 今まで良く頑張ってきたな、と。 これでもう大丈夫だと。 後はきっと、事態は好転していくだけだろう。 そう言って労って、安心させてやれるならば。 迷いながらスマホを繰って、結局当たり障りのない文面を返した。 『メリークリスマス こっちは相変わらず貧乏だけど、そこそこ忙しくしてるよ。 お母さんが順調に回復しているみたいで、安心しました。』 ――もう大丈夫だと言ってしまったら、それが最後の言葉になるような気がして。 顔を見てしまったら、抑えが利かなくなるような気がして。 頼りなく曖昧な繋がりがまだ残っていることが確認できた、今はそれだけに留めておきたい。 そうでなければ、ようやく固まった決心も覚悟も揺らぎそうだった。
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