2学期・後半

16/16

56人が本棚に入れています
本棚に追加
/151ページ
「隼人、本気なの?」 ――真面目な話。 確かに飲んでしまわなければ、腹を割って話せないのかもしれない。 いつだって俺たちは、適当に緩く面白おかしく過ごしてきたのだ。 だからこういう空気は、正直慣れない。 それでも居心地の良い仲間のなかに、確かに芽生えていた絆があって。 だから2人が言いたいことも、よく理解できた。 「一緒に卒業できなくなるんだよ?」 「そーだよ、何も急がなくたって!」 分かっているさ。 俺だって、別に簡単に決めたわけじゃない。 ただ、今、そういう岐路に立っているのだと思ったんだ。 不意に示された新しい枝道の前で立ち止まった時に浮かんだ、『分岐点で迷ったらより険しい方を選べ』とは――、憧れつづけたあの人、菅井先生の言葉だった。 目指す目的のために、一切の甘えを捨てなければならない。 それが今なのだと、思ったんだ。 『いつか』ではなく、『今』だと。 「決めたんだ」 ひと言。 それから、手の中のグラスをあける。 よく冷えて金の気泡をあげているビールが、食道を刺激しながら下っていった。 「夢があるから」 こんな台詞を。 確かに小っ恥ずかしくて、素面じゃ口には出来ない。 「さみしいじゃねえか」と泣きついてきた裕也を足蹴にしたら、「私もさみしいわ」と木嶋が妙な科を作った。 残念ながら色気はない。 「戻ってきたら、先輩って呼ばす」 「お前が無事進級出来てればな」 「うわあ、それ笑えないよ進藤くん!」 結局最後は、全員で笑い飛ばした。 ――4月になったら、休学する。 ただの短期留学などではなくて、ワーキングホリデービザで2年間。 現地で働きながら、言葉と文化と社会の仕組みをまとめて学ぶために。
/151ページ

最初のコメントを投稿しよう!

56人が本棚に入れています
本棚に追加