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「……俺、が?」
なるべく、優しく聞こえるように――なんて言っても、たかが知れてるのだけど。
落ち着かせるように心がけて、続きを促せば。
「早く……っ、安心、させろって……」
返ってきた一撃の破壊力は、半端じゃなかった。
俺が言った、その一言が。
彼女の逃げ道を塞いでいたなんて、気付きもしなかった。
「分かった」
思わず放った言葉は、多分かなりズレていたと思う。
けど、気にしてなどいられなかった。
「今、呼んで」
「セン……セー?」
「呼んで。行くから」
そこへ。
今すぐ。
会いに、行くから――。
――朱莉から呼ばれた、という口実がなければ、身動きすら出来なかったあの頃の自分を思い返すと思わず笑いが漏れる。
必死だったんだ。
今思えば恰好悪いけど、相当必死だった。
ただ、電話の向こうで泣いている朱莉に会いたかった。
泣かなくていいんだと、もう我慢しないでいいんだと、本当は頼ってほしかったんだと伝えたかった。
ずっと、待っていたんだって。
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