エピローグ

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「朱莉ちゃーん!進藤くん!」 不意に呼ばれた、聞き覚えのある声に2人して振り返れば、そこには 「卒業おめでとー!」 くたびれたスーツ姿のサラリーマンと、バリバリのキャリアウーマン。 とても同い年とは思えない、否、思いたくない。 「裕也、木嶋。お前ら、仕事は」 「ちょーっと、せっかく祝いに来てやったのにその言い草なんよ!」 変わらない2人、だけど、学生と社会人という立場の差は、確かにあの頃とは何かが違う。 「サボりか、腐れ外道め」 「馬鹿言うな、営業ルートを調整しただけだ」 「私はクライアントの相談聞いてきた帰りー」 教師という夢をいつのまにかあっさりと捨てて不動産会社に就職した裕也と、当初の目標通り法律事務所に入り目下弁護士を目指している木嶋。 あの頃の同期は既に社会人2年目となっていて、遅れをとっていると感じないこともない。 が、それでも、あの2年が俺にとって無駄な時間だったとは、微塵も思っていなかった。 2人の姿に気付いたか、周囲に転々と散っていたフットサルサークルのメンバーがわらわら寄って来る。 再会を懐かしんだり卒業の報告をしたりと騒ぐメンツの中に自然と溶け込む朱莉は、初めてフットサル場へ連れて行った時の日傘の少女と同一人物とはとても思えなかった。 あの頃の『長い戦い』への覚悟など、本当にちっぽけなものだった。 せいぜい2年程度と心のどこかで思っていた――それが二十歳の俺の『長い』の基準だったから。 朱莉の母親の治療は、実際にはその倍の年月を要した。 2つ年下の彼女にとっては、きっともっと長く感じられたに違いない。 長い月日を経て、彼女はようやく自然な笑顔と彼女らしさを取り戻すことができたばかりだ。
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