エピローグ

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――朱莉からの電話があったあの時、渡航は既に間近に迫っていた。 会ってしまったら、抑えていたものが決壊してしまうかもしれない。 触れて、伝えて、抱きしめてしまうかもしれない。 それくらい、想いは募っていた。 生徒なのに。 その枷を、外した、わけではなくて。 勝手にタガが外れていた。 抑えてきた理由すら、頭から消えていた。 だけど、必死で走って、全力で走って、前から同じように走ってきた彼女を見た瞬間。 ――先にその『壁』を破ったのは、俺ではなく、瀬戸朱莉の方だった。 「行かないでよセンセー!やだあっ!!」 「朱……!」 飛び込んできた、彼女は泣いていて。 頼りなくて、怯えていて、壊れそうで。 それくらい張りつめていたのだと、そうさせたのが自分なのだと、気付かなかった間抜けさを呪った。 冷静になれたのは、彼女が予想以上に弱っていたからだ。 もう大丈夫なんだ、と俺は勝手に決めつけていたというのに、全然そうじゃなかったから。 感情むき出しで縋りつく朱莉なんて、思い返せばあの時しか見たことがない。 あれが最初で最後かもしれない、だからこそ。 俺は決してあの日の事を忘れてはいけない。 こうやって、何年経っても何度でも、あの日の記憶を再生し続ける。
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