エピローグ

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朱莉が泣いたから。 必要とされている、気がした。 彼女は最後まで俺を『センセー』と呼んでいたけど、それでも。 甘い空気だった、気がした。 胸に飛び込んできた彼女を宥めて、髪を撫でて、落ち着かせて。 そのまま、こみ上げる気持ちのまま両腕を背中にまわして抱き寄せても、良かったのかもしれない。 そうしなかったのは、いつまでも聖職者の枷に囚われていたからではなくて。 ――彼女の2年を縛る権利など、俺にはないと思ったから。 決定的な言葉を避けて、彼女にも追求しないで、ギリギリどっちとも取れるような会話を選んだ――つもり。 保身のために逃げていたそれまでの俺とは違って、彼女のために。 辛いことがあって頼る相手が欲しければ連絡してくればいい。 なければ、全部うまくいってるんだと思うことにするから。 そうでなくても、他に頼れる人間が近くにいるんだろうと。 定期連絡、なんて冗談めかして言ったけど、別にそんなもので束縛しようとしたわけじゃない。 ただもし朱莉が少しでも俺と同じ気持ちでいるなら、そういう口実があった方が彼女の性格的に連絡してきやすいんじゃないか、とか。 少しばかりの打算があったのも、事実だけど。 ――2年。 俺が言葉を学び、文化の違いや国民性の違いを知り、働いて金を稼いで生活することの意味を肌で学んでいる間。 彼女はずっと、欠かさずに週1回電話を寄越した。 晴れの日も雨の日も。 辛い時も、楽しい時も。
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