エピローグ

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最初の3ヶ月は語学学校。 不安な発音に繰り返される講師からの「Say,again」は夢にまで出てきた。 日常会話がなんとか通じる程度で学校生活は終わり、転々とアルバイト生活。 共同生活や現地の人間に混じっての仕事を通して知ったこと。 ――自国愛。 決定打は観光ガイドの仕事だった。 俺は他国のいいところをこんなに紹介出来るようになったのに(しかも英語で)、日本については何も知らない。 恥ずべきことだと思った。 そして帰国後、改めて自国の素晴らしさを目の当りにしたら。 コロリと。 「海外からのツアー客の現地添乗員兼通訳、ね。良かったわね、ギリギリで希望にかなう就職先見つかって」 「その節はご心配をおかけして」 就職は、木嶋の言う通りかなりギリギリだった。 ガチでその夢に目覚めた今、もう何年か無駄にしたって別に構わないと開き直れたのも向こうで過ごした2年間のおかげなんだろうけど。 「じゃ、景気づけに飲み行きますか先生!」 「先生は俺じゃねえ、こっち!」 引きずられそうになり、慌てて朱莉に矛先を向ける。 「うわ、センセーに先生って呼ばれるの、なんか微妙」 「つーかお前も、その呼び方はいい加減よせ」 今でも朱莉の口からたまにポロリと出てくる『センセー』という単語は、甘い痛みを孕んでいる。 注意すると決まって少しはにかんでから、『隼人』と呼び直すんだ。
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