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「……ったくあいつら、仕事抜け出してきた割に長居していきやがって」
「嬉しいんでしょ、久しぶりに隼人に会えたから」
結局一旦仕事に戻っていく2人を見送って、サークルの仲間たちも夜の卒業生追い出しパーティまでは一旦解散となった。
飲み会の前に着替えに帰るという朱莉と2人並んで、大学から駅までの坂をのんびりと下る。
「ねえ、センセー」
「お前、また」
「……隼人」
「ん、どうした?」
「私もさ、もう結構、待ってるよ?」
「あー……。分かってんの?仕事始まったら俺、結構転々と飛び回ることになるんだけど」
「だから、でしょ?」
「ふむ。……まあ、それも一理ある」
頷くと朱莉は、満足そうに笑って目を輝かせた。
うちの大学の、それもまさかうちのサークルに入って俺の帰国を待ってくれていた朱莉と、改めて同期の仲間として過ごして1年、付き合い始めて2年。
就職を機に、と、確かに望んでいた。
しかし、だ。
「付き合ってんのが元家庭教師とか知れたら、お前の母さん、大丈夫?」
そこが心配。
1年ほど前、もう『本当に大丈夫』だと医師から太鼓判を押された直後に、朱莉の家族は揃ってうちに礼を言いに来た。
母さんはその後もずっと朱莉の家に出入りしているようだが、俺が彼女の母親に会うのはその時以来だ。
俺は朱莉の母親から見たら、『娘の大学の同期』ではなくてやはり『娘の家庭教師』のままなんだろう。
「あら、大丈夫よ。今じゃ全ッ然元気なんだから。むしろそういう意味では――お父さん?」
「げ、その情報要らなかったわ」
余計ビビるっつーの。
別に、嫁にくれって言いにいくわけじゃないけど。
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