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ふふ、と楽しそうに口元を押さえた朱莉は、「冗談よ」と軽くスキップ。
袴姿なので、いつものようにぴょんぴょんとまでは跳ねない。
「うちの家族、みんなセンセー一家に感謝してんだから」
「……センセー、ね」
またやっちゃった、と舌を出す朱莉の頭をくしゃくしゃとまぜると、
「せっかく和装に合わせてセットしてるのに!」
と不服そうに口を尖らせた。
いいじゃないか、どうせすぐに洋服に着替えんだから。
「じゃ、このまま挨拶行きますかね」
朱莉の家に。
この春から、一緒に暮らす許可をもらいに。
――ひとり娘、そう簡単に実家から出してもらえんのか本当に?
よぎる不安は、
「びしっとお願いしますよ、セ・ン・セ・イ!」
この笑顔に、大抵いつも吹き飛ばされるのだけど。
「え、あ、ちょ……!」
人通りがたまたま途切れたとは言え住宅地のど真ん中、立ち止まって腕を掴んで引き寄せればあたふたと狼狽える。
「今日、間違えすぎだから」
お仕置き、と、わざと耳元に囁くと真っ赤に染まる。
それでも、ぎゅっと目を瞑って素直に眼鏡を外すから可愛いんだ、こいつは。
往来で、触れるだけのキスをして。
また、手を繋いで歩き出す。
予想もつかない未来へ、2人で。
*fin*
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