1学期

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「初めまして、家庭教師の紹介をいただきました進藤隼人と申します」 第一声はさすがに緊張する。 だがなんとか噛まずに自己紹介が出来た。 玄関に出迎えてくれたのは柔和な微笑みをたたえた母親らしき女性で、その表情に少しばかり気がほぐれる。 彼女に案内されて、俺はまずリビングに通された。 既に用意してあったのだろう、淹れたてと思しきコーヒーがすぐに出された。 それがテーブルに置かれる瞬間に香った匂いから、インスタントではなく豆から挽いたものだと分かる。 こういう所から生活水準の高さが窺える――もっとも、ある程度の余裕がある生活じゃなきゃ、家庭教師なんか雇えやしないのだろうが。 お構いなく、などと言う間もなく、彼女は腰を上げて2階を指差しながら「娘を呼んでまいりますね」と言って出ていった。 自分の母親とは似ても似つかない上品な言葉遣いやひとつひとつの仕草にこの家の階級を垣間見た気がして、少しばかり気遅れする。 生徒と対面する前に気持ちを落ちつけようと口にしたコーヒーの深い味わいも、逆にそれを助長した。 やっぱり家庭教師より、塾講師にしとくべきだったか。 正直なところ、いきなり一対多で授業を受け持つ自信がなかったのだ。 だからこそ最初は一対一で慣らそうと思い家庭教師を選んだのだが――、思ってもいなかったところで変に緊張してしまう。
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