夏休み・後半

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「どうしたぁ?俺に会いに来たのか」 ニヤリと目を細め口角を上げる教師に対し、その通りだと素直に認めると彼は拍子抜けしたような面喰った表情に変わる。 「なんだ?用もなくフラフラと遊びに来る奴はたまにいるけど、お前そういうタイプじゃなかっただろう」 何かあったのか、と問われ、俺は正直に、相談があるのだと答えた。 「……それなら」 と、菅井先生はまばらに他の教師が残る職員室を見渡し、スッと引出しを開けると何かをポケットに忍ばせ「場所を移そう」と提案する。 ポケットに入れた『何か』は、しっかり俺の目に映ってしまった。 いや本人には隠す意図はなかったのだろうけど、何故だかショックが隠せない。 爽やかスポーツマン系好青年だった憧れの人が、煙草を吸う、という事実に。 連れ出された北校舎の屋上に、俺は在学中上ったことがなかった。 先生が持ってきた鍵でドアを開けたので、多分普段は生徒が立ち入れないようになっているのだろう。 見慣れたはずの学校周辺の風景は、少し視点が高くなっただけでえらく違って見えた。 出入り口の裏に回ればそこにはしっかりと日陰が出来ていて、色褪せたベンチと、そしてまさかの灰皿が設置されていた。 「ここ、いいだろう。愛煙家の先生たちの喫煙所だ」 なるほど生徒の前では当然吸う訳にいかないが、愛煙家というのは日中ずっと我慢が出来ない人種なのに違いない。 ここに連れて来たのは『相談事』を他人の耳に入れないためか、ただ単に彼が煙草を吸いたかったからか。 少しだけ、ほんの僅かだけ。 焦がれていた気持ちを裏切られたような、残念な思いを、拭い切れない。
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