夏休み・後半

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――そうか、それが。 俺をここに連れて来た、理由。 「……俺、乳臭かった?」 「お前は昔から、周りよりはちょっと大人びてたなぁ」 「でもやっぱり、青臭いまま卒業した?」 「お前だって今の目で見たら、中3なんてみんな青く見えるだろ」 煙草の先からくゆる煙は、風の止まった穏やかな空気の中、迷いなくただ真っ直ぐに上へ伸びる。 「こんな話も、中坊相手には出来ねえな」 ニヤリと笑った先生の目は、俺が一緒に煙草をふかさなくても、彼が夢の一端を叶えた喜びを教えてくれた。 「俺――、先生みたいな、教師になりたい」 さっき支えて言えなかった言葉が、するりと零れ落ちる。 阿呆か、と、先生は鼻で嗤った。 「俺なんか目指すな」 あの頃のように、冗談めかして後頭部を軽く叩いてくる。 そして「おっといけねぇ」と、慌ててその手を引っ込めた。 「今じゃこの程度でもすぐに体罰だって騒がれてよ。教師なんてつまらねえもんだぞ」 つまらない、と言いながら、先生は、実に楽しそうに声を出して笑った。 4年ぶりに会った菅井先生は、俺が記憶の中で思い込んでいた『聖職者』のイメージとは少し違っていた。 汗と煙草の匂いが混じった冴えないオッサンで、口が悪くて、すぐに手が出る。 その人はどこにでもいる当たり前の、俺が思っていたよりもずっと人間らしくて、俺たちに『近い』人だった。
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