夏休み・後半

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「俺より向いてるよお前、教師に」 先生の言葉に、俺は煙を追いかけて宙へ浮いていた視線を彼に戻した。 「ただちぃっと真面目すぎるなぁ。硬い!もっと気楽に行け、何事にも」 「それ、は……」 真面目すぎると、生徒が取っ付きにくいとか親しみにくいとか、そういうコトか? 疑問がそのまま顔に出たのか、尋ねる前に「違う違う!」と大げさに手を振った先生は、フィルターぎりぎりまで吸った煙草を灰皿に押し付けた。 「身構えすぎるとな、潰れるんだよ教師ってのは。それはもう、簡単に。――真面目なヤツほどな」 だから俺くらい適当なのがちょうどいい、と、先生は笑う。 閉じていた扇子を開いて、またパタパタと扇ぎだした。 ――そう、だっただろうか。 否、当時の、まだ若い新米教師だった頃の彼は、やっぱり適当ではなくて、真面目な熱血教師だったように思う。 だからこそ俺はこの人に惹かれたのだ――、そうではない一面を見せられた今もまた、それを別の魅力と捉えて魅せられているのだけれど。 7年かけて『こう』なったのは、『潰れない』ために、なのか。 「菅井先生」 なんだ?と、その人は首を傾ける。 「教師は――、『聖職者』、ですか?」 先生は、何も言わなかった。 ただ黙って真っ直ぐに俺の目を見つめ、そして右の口の端だけが、静かに、少しだけ上がった。 沈黙はほんの数秒、部活動でグラウンドを走る中学生のかけ声によって、うやむやにされる。 「……カンニングは良くねえな、進藤。その答えは、自分で出すんだ」 常々思っていた。 この問題には答えなどなくて、ただ自分が、どう思うか。 答えはきっと、自分の中にしか、ない。
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