夏休み・後半

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瀬戸朱莉の希望によって企画された隣県で行われる花火大会への小旅行は、結局、彼女なしで実行された。 夜空を彩る花火たちを尻目に、俺たち――木嶋と裕也の3人は、延々と答えの出ない討論を続けたのだ。 すなわち、今後瀬戸朱莉とどう関わっていくべきかについて。 同行していた他のメンツが引くくらい、それはもう静かに、だがとめどなく続く話し合いだった。 最後の大玉連発が打ち上がる頃になって漸く、一番最初に結論を出したのは裕也である。 「俺はさ……、悪ぃけど、手ぇ引くわ」 彼の立ち位置を考えれば、当然と言えば当然の結論だった。 ただ裕也にしては歯切れの悪いその言い方が、後ろめたさを如実に表している。 それが瀬戸朱莉に対してか、引くに引けない立場の木嶋や、最初に朱莉と関わりを持った俺に対するものなのかまでは分からなかったが。 「助けようよ」 「どうやって」 そうして俺と木嶋は、もう何度目かも分からない不毛な議論を繰り返したのだ。 花火大会の締めくくり、この大会の目玉のひとつでもある巨大ナイアガラが消えゆくまでじっと見送った木嶋が、最後に小さく呟いた。 「これ、朱莉ちゃん、すごく見たがってたのに」 彼女は今、どうしているのだろう。 俺たちと馴染む前のように、出会った頃のように、死んだ妹の着ぐるみを着て、部屋に閉じこもっているのだろうか。 どこか歪んだあの家に、縛られているのだろうか。 「……助けよう」 滝の最後の残り火が、ゆらり、風に舞って落ちた。
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