2学期・前半

2/43
56人が本棚に入れています
本棚に追加
/151ページ
義務と権利とか、本音と建前とか、考えすぎて疲れた脳は休息を求めていた。 もやもやしたモノを晴らすには、運動。 小難しいことは考えずに汗まみれになって無心でボールを追いかけていれば、少しは気分が晴れるに違いない。 それは逃避、には違いないのだけれど、今の俺には必要なことだ。 「WANT」、ではなくて、「NEED」。 フットサル用の着替えやタオルを詰め込んだバッグを担いで家を出たのは、昼時より少し前だった。 珍しく誰と約束しているでもなしに、昼飯を1人外で食べようと思い立ったのも、何かしら気分転換を必要としての無意識だったかもしれない。 どうせなら初めての店に入ろう。 地元の駅でも大学の駅でもなく――そう言えば途中に駅中のレストランやカフェが充実しているとこがあったな。 いつも通過するだけの駅で途中下車というのも悪くないかもしれない。 運動前に適した軽めの食事が出来て、せっかくだからいつもは入らないような雰囲気の店を探してみるか。 と、考えを巡らせている内に少しだけ楽しみになってきた。 まさしくこれが、求めていた『気分転換』なのだと実感しながら――、気分を変えよう変えようと意識しすぎたあまりか、この時の俺は、後から思えば少々浮かれすぎだった。 そしてそれ故に、色々なことを失念していた。 例えばその駅は、瀬戸朱莉が通う女子高の最寄駅であるということとか。 そもそも彼女の家の最寄駅は、俺が今まさに向かっている駅と同じということとか。 彼女の高校が今日、始業式であることとか。
/151ページ

最初のコメントを投稿しよう!