2学期・前半

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言うほど財布の中身が寂しいわけでもないが、一体このお嬢サマは何を奢らせるつもりか、と身構えた俺を拍子抜けさせたことに、彼女の要求は実に予想外なモノだった。 「……え、何?もう1回言って」 と、思わず聞き返してしまったほどに。 だから、とちょっと怒ったような顔をして、朱莉は繰り返す。 「ハンバーガー!」 ……ハンバーガーって、アレだよな。 ハンバーグ、の聞き間違いじゃないよな。 あの、パンの間に肉とかトマトとかチーズとか挟まってる、手づかみで大口開けて噛みつく高カロリーなジャンクフードのことだよな。 「マジで?」 「……何なのよっ!」 ツンと尖らせた口、膨れた頬、逸らせた目線は不機嫌と見せかけての、 「何照れてんの」 「ばっ……!」 照れ隠し。 図星を指されて顔を赤くしたのは金持ちのお嬢なんかじゃなくて、ただの女子高生だ。 素の彼女は日傘なんか使わないし、高級フランス料理よりもジャンクフードがお好みらしい。 そう言えばコイツ、夏祭りではたこ焼きを旨そうに頬張っていたし、バーベキューでも串に刺さったままの肉や野菜に食いついていた。 朱莉の素顔を理解しているつもりでいたけど、なまじ日傘や足音を立てない歩き方や『お母様』なんつう言葉遣いを目にしてきたがために、無意識にそっちの印象に引っ張られている部分がある。 これは、改めなければ。
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