56人が本棚に入れています
本棚に追加
/151ページ
言うほど財布の中身が寂しいわけでもないが、一体このお嬢サマは何を奢らせるつもりか、と身構えた俺を拍子抜けさせたことに、彼女の要求は実に予想外なモノだった。
「……え、何?もう1回言って」
と、思わず聞き返してしまったほどに。
だから、とちょっと怒ったような顔をして、朱莉は繰り返す。
「ハンバーガー!」
……ハンバーガーって、アレだよな。
ハンバーグ、の聞き間違いじゃないよな。
あの、パンの間に肉とかトマトとかチーズとか挟まってる、手づかみで大口開けて噛みつく高カロリーなジャンクフードのことだよな。
「マジで?」
「……何なのよっ!」
ツンと尖らせた口、膨れた頬、逸らせた目線は不機嫌と見せかけての、
「何照れてんの」
「ばっ……!」
照れ隠し。
図星を指されて顔を赤くしたのは金持ちのお嬢なんかじゃなくて、ただの女子高生だ。
素の彼女は日傘なんか使わないし、高級フランス料理よりもジャンクフードがお好みらしい。
そう言えばコイツ、夏祭りではたこ焼きを旨そうに頬張っていたし、バーベキューでも串に刺さったままの肉や野菜に食いついていた。
朱莉の素顔を理解しているつもりでいたけど、なまじ日傘や足音を立てない歩き方や『お母様』なんつう言葉遣いを目にしてきたがために、無意識にそっちの印象に引っ張られている部分がある。
これは、改めなければ。
最初のコメントを投稿しよう!