2学期・前半

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「あっちって……結構歩くぞ、車出すか?」 駅まで歩いてそのまま朱莉をつけて戻ってきて、朱莉の家目前でかっさらって当てもなくフラフラとさ迷い歩いている今、既に結構な時間歩きっぱなしだ。 この程度で足にくるほど年取ってはないが、用途のなくなったデカいスポーツバッグは結構邪魔で、歩くのは構わないけど出来ることならこれは置いていきたい。 「え、車持ってるの!?」 「や、家の車だけど」 ウチは朱莉んちのような金持ちじゃない、取り分けて貧乏って訳でもないが、ごく標準的な一般家庭だ。 免許取りたての大学生が車1台所有できるほどの余裕はない(なにせ本人が今無職だし)。 「なぁんだ。それ口実に、家に連れ込もうとしてるんでしょ」 「……歩くか」 それなら初めから家に連れてってるし。 下心がなくても色々まずそうだから敢えて俺の家という選択肢を除外しているのに、そっちから振ってきてどうする。 「や、嘘ウソ!冗談ですって」 慌てて着いてきた朱莉が、お願い、と甘えながら腕に絡みついた。 思わぬ至近距離にギクリとして、一瞬腰が引けそうになるのを咄嗟に誤魔化す。 さりげなくその手から逃れながら自宅へ向けて足を動かした。 「……家、こっち。すぐ近くだから」 はぁい、と間延びした返事をして、パタパタと嬉しそうに追いかけてくる。 こいつは生徒、否『元生徒』であって、俺にとってそれ以外の、一体何者であると言うのだろう。 可愛いものを可愛いと思うのは百歩譲って許されるとして、ドキッとしたのはアウトなんじゃないか? 俺が、もし、『教師』なら。
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