2学期・前半

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自宅の敷地に足を踏み入れると、半歩後ろから驚いたような小さな声が聞こえた気がした。 「え、何?」 「……マンション」 一軒家を想像してたのだろうか。 朱莉の家がある辺りは比較的広い敷地にゆったりと戸建てが並ぶ、この辺では高級住宅地にあたる地区だ。 対して徒歩10分程度しか変わらないこの辺りは、庶民的な家や集合住宅が並ぶ一般人の住み家。 小学校入学と同時に引っ越してきたこのマンションも、当時は新築だったが当然俺と一緒に年を取ってきたわけで、既に築十数年だ。 10年の節目に修繕工事と外壁の塗り直しがされたから、外目はそれほど古くもボロくもない。 別に朱莉の家と比較して悲観するわけじゃないが、特に『良い家』とも呼べない――ごく『一般的』な家だ。 ちゃんと俺の部屋もある(狭いけど)し、不自由はしていない。 「俺が戸建ての豪邸に住んでるぼんぼんに見える?」 苦笑してそう言うと、「そういう意味じゃ!」と朱莉は慌てて両手を振った。 「中入るの、初めてで」 と、12階建の白壁を見上げる目は興味深々。 マンション住まいの友達とかはいなかったんだろうか。 車のキーを取って(ついでに荷物を置いて)戻って来るまで下の駐車場で待たせていようと思っていたけれど、あんまり興味がありそうだからつい「着いて来る?」と聞いてしまった。 また連れ込むとか言われるかと思ったがそんなことはなく、目を大きくした朱莉は嬉しそうに何度も頷く。
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