2学期・前半

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オートロックを解除して中に入った先のホールに特別面白いモノはないはずなのに、エレベーターを待つ間、彼女は集合ポストや掲示板を目を輝かせて見て回った。 ポストの投函口が建物の外側で、取り出し口が内側というのが特にお気に召したようだ。 彼女の好奇心がまだ十分に満たされない内にエレベーターが到着し、置いていくぞと脅しをかけると慌てて滑り込んでくる。 行先階のボタンを押したところで 「9階!」 と、朱莉は無意味にそれを読み上げた。 「何、高所恐怖症?」 からかうとムッとした顔で 「違いますぅー!」 と口を尖らせる。 じゃあ何だ、9階だからなんだってんだ、という疑問はなんだか馬鹿馬鹿しくなって心の内にしまった。 目につくもの何でもかんでもが珍しいようだった。 奇数階にしか止まらないこのエレベーターとか。 偶数階のボタンを探して『存在しない』という結論を導き出した彼女は、当然そこについて質問してきた。 「偶数階の人はどうするの?」 答えるまでもない、俺の家は10階だ。 ちょうどエレベーターが9階で止まり、箱から降りるとすぐ左手の扉を開く。 「こうするの」 扉の向こうに現れた階段に、謎が晴れてまた顔を輝かせた朱莉は声にならない感嘆の息を漏らした。 そのまま当たり前のように階下へ向かおうとする朱莉を、慌てて軌道修正させる。 そう言えば俺は行きも帰りも習慣的に9階を利用するが、母さんは階段を上るのが嫌という理由で行きは9階、帰りは11階を使うと言っていた。 無意識レベルで、朱莉と母さんの思考回路は同じなのかもしれない。
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