2学期・前半

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1005号室の扉の前でここが俺の家だと説明すると 「中も見ても?」 との質問に、見たい気持ちと遠慮の両方が見え隠れした。 見られて困るほど散らかってもいないはずだけど、目的が済んだらすぐに出るつもりだったので一瞬回答に詰まる。 「……別にいいけど、多分……」 この時間、家に母さんが。 気兼ねしないか、とも思ったが、それを言ったら言ったでまた『2人きりが良かったの?』とか意地の悪いことを言われそうだから、やめる。 母さんも母さんで何か余計なこと言って来そうで恐ろしいが、まあ、用事は一瞬で済む。 さっさと逃げればいいだけの話だ。 なるようになれ。 覚悟を決めて玄関を開けると同時、 「なにぃッ!?」 リビングの方向から大きな声がして思わずため息を吐いた。 後ろから遠慮がちに中を覗きこんでいる朱莉に母さんの声だと教えてやると、目をぱちくりさせる。 まあ、彼女の母親なら決して発さないような言葉であり音量だから、驚くのも仕方がない。 客用スリッパを出してやり中へと進む間にも、庶民の母(代表として扱うには少々疑問があるが)の大音量は続く。 「昼外で食べるんじゃなかったのぉ!?母さん1人だから贅沢にピザでも……あれ」 庶民の母と金持ちの一人娘、対面。 リビングの椅子に行儀悪く片膝立ててガン見していたピザのメニューから顔を上げた母は、俺の後ろに立つ制服姿の女子高生を見て一瞬固まった。 しれっと上げていた片足を降ろして取り繕っても後の祭りだ、母よ。
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