一般参賀

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「筧さん、ちょっとよろしいですか?」 後輩にあたる棚橋に呼ばれて、筧が棚橋のデスクに行くと、パソコンの画面の前で、棚橋は釘付けになっている。 「どうした?何かあったか?」 筧が話しかけると、棚橋は画面から目を離さぬまま、 「筧さん、実は読者からうちの新聞のホームページに投稿がありましてね。今年の正月2日の皇居の一般参賀の記事なんですが、覚えてらっしゃると思いますが、一面トップに東京駅から皇居に向かう途中の参加者の行列のカラーを揚げてありました。 投稿と言うのは、その行列の中に、立宮義弘の姿があったと言うのです」 「立宮義弘?あの立宮義弘か?」 筧は疑うように聞き返した。 「ええ、あの立宮義弘です。太平洋戦争の時に南方戦線で戦った陸軍大尉立宮義弘です。たった8人の兵士で3000人の敵を翻弄したと言う彼です」 「本来ならば戦犯として進駐軍に処刑されたであろう彼は終戦と同時にバナン島あたりで姿を消したはずだ。敗軍の将として敵の手にかかるのを恥じて自決したとも、ジャングルの中で生き延びているのを見たという情報もある。その彼が平成も28年になって、突然、皇居の一般参賀に現れたと言うのか?信じられん」 そう言うと筧は棚橋と共にパソコンの画面に見いった。二人は丹念にパソコンに写し出された一般参賀の写真を見た。 やがて、棚橋が後方から顔だけを覗かせる一人の男性の顔をアップにした。 「棚橋、似ているけど、少し若すぎないか?立宮義弘が生きているとしたら…第一終戦から71年も経ってるんだ。明治22年生まれの立宮義弘が生きているとしたら現在は127歳になっている。そんなバカなことあり得ない。違うか!」 「筧さん、じゃガセだと言うんですね」 「ああ、立宮義弘は横井さんや小野田さんみたいにジャングルに潜み続け、そのまま人知れず命を終わっている…俺はそう考えているよ」 「ですよね。あるわけないですよね」 「ところで、投稿してきたのは、何者なんだ?」 「投稿者なんて本名なんか使わないですから、或る裏の手づるで調べさせたところ、新宿の黒川ビルの中から発信されたようです。しかも、黒川静子のオフィスからです」 棚橋はそう言うと筧を見て反応をうかがった。 「黒川グループ、黒川財閥の陰の女帝の黒川静子か?」 「はい!」 事件は、この年の黒川グループの株主総会の席上で起こった。
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