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熱い。
熱くて、痛い。
身を捻り、逃げ出したいほどの激痛。
しかしアーシュの手足は自由を奪われ、頭は屈強な兵士に抑えつけられていた。
皮膚が焼ける匂い。
肉が裂けるような痛みに、いっそ意識を手放せたらと思う。
しかし、それは許されない。
冷たい石台の上で俯せにされたアーシュの体は手足を拘束され、右肩に奴隷の焼印を刻まれていた。
夫となるレイズ・ウェイパー王子、その人に。
光の閉ざされた暗い地下室。
カビの混じる湿った空気が、体に纏わりつく。
拘束された石台は体の熱を奪うのに、右肩に押し付けられた火の鉄槌は勢いを弱める気配がない。
意識が遠のく中、低い声が地下室に響いた。
「ウェイパーへようこそ、アーシュ・マリュ王女。
我が妃よ」
深い緑の瞳が、緩やかなアーチを描く。
きめ細かな白い肌に影を落とす長い睫は、夜空の輝きを放つほどに濃く、鼻筋は精巧な硝子細工のように整っていた。
太陽の光のようだとたたえられた金色の髪を持つ王子は、衣のように滑らかな髪を揺らし、血のように赤い唇は柔らかな微笑みをたたえている。
薄れかけた意識を必死に保ち、必死の思いで顔を上げると、黒く強いウェーブのかかったアーシュの髪が石畳の上にはらりとおちた。
「心からの、歓迎……ありがとうございます。
レイズ、王子」
痛みをこらえ、精一杯の笑顔を向ける。
生国、マリュにて、太陽のようだと称えられたその微笑みを。
王子は肩に押し付けていた焼きゴテを離すと、愉快そうな笑い声をあげた。
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