*第一章* 始まりの印

2/21
372人が本棚に入れています
本棚に追加
/230ページ
熱い。 熱くて、痛い。 身を捻り、逃げ出したいほどの激痛。 しかしアーシュの手足は自由を奪われ、頭は屈強な兵士に抑えつけられていた。 皮膚が焼ける匂い。 肉が裂けるような痛みに、いっそ意識を手放せたらと思う。 しかし、それは許されない。 冷たい石台の上で俯せにされたアーシュの体は手足を拘束され、右肩に奴隷の焼印を刻まれていた。 夫となるレイズ・ウェイパー王子、その人に。 光の閉ざされた暗い地下室。 カビの混じる湿った空気が、体に纏わりつく。 拘束された石台は体の熱を奪うのに、右肩に押し付けられた火の鉄槌は勢いを弱める気配がない。 意識が遠のく中、低い声が地下室に響いた。 「ウェイパーへようこそ、アーシュ・マリュ王女。 我が妃よ」 深い緑の瞳が、緩やかなアーチを描く。 きめ細かな白い肌に影を落とす長い睫は、夜空の輝きを放つほどに濃く、鼻筋は精巧な硝子細工のように整っていた。 太陽の光のようだとたたえられた金色の髪を持つ王子は、衣のように滑らかな髪を揺らし、血のように赤い唇は柔らかな微笑みをたたえている。 薄れかけた意識を必死に保ち、必死の思いで顔を上げると、黒く強いウェーブのかかったアーシュの髪が石畳の上にはらりとおちた。 「心からの、歓迎……ありがとうございます。 レイズ、王子」 痛みをこらえ、精一杯の笑顔を向ける。 生国、マリュにて、太陽のようだと称えられたその微笑みを。 王子は肩に押し付けていた焼きゴテを離すと、愉快そうな笑い声をあげた。
/230ページ

最初のコメントを投稿しよう!