3 あの日のお前の言葉  

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《分かった…いいだろう。弦一郎、外に出ていてくれ。》 《……分かった。》 《で、何を話したいんだい?》 《……俺の姉貴の話です。》 《?…お前、一人っ子じゃなかった…?》 《周りにはそう言ってます。 でも、本当はいたんです。》 《い…た…?》 《1年半前に末期ガンで死にました。 ガンだって分かった時には、もう…手遅れで……》 《…そう…だったのか……》 赤也の表情は俯いていて見えない でも、膝の上で握り締められている拳は 震えていた 《…姉貴は…姉ちゃんは、 薬での治療を拒否しました。 もう助からないのだから意味がないって… でも、それは諦めとかじゃなかった。 姉ちゃんは俺にこう言ったんです 『お金は薬に使うより、もっと価値あるものに使いたい』 『残された時間は、治療に使うより、思い出に残るものに使いたい』 それが、姉ちゃんなりの “闘い方”だったんです。》 《闘い方……》 《姉ちゃんはこうも言いました 『“生きること”が大事なんじゃない、“どう生きるのか”それが大事なんだよ。』 いたずらに命を伸ばすより、 短くても、価値のある生き方をするべきだ。って 口癖みたいに言ってました。》 《………》 《部長、部長は生きてます。 治らない病気なわけじゃない。 闘って下さい。 テニスをしろとは言いません。 ただ、諦めないで欲しい。 姉ちゃんが諦めなかったみたいに… 闘って欲しい。 仮にもアンタは俺らの部長なんスから。 常勝立海は、 いかなる試合も勝たなければいけないんスから 試合放棄なんてことはしないで欲しいっス。》 顔を上げた赤也は 泣いていた。 とても、とても静かに、 泣いていた。 でも、その目は 強い光を湛えていた。
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