0人が本棚に入れています
本棚に追加
「カワクボミホは今ノーパンノーブラ」
クラス中の瞳が私に集まる。
「こんな悪ふざけやめなさい!」
その女教師は私のリアクションも待たずにピシャリとそう言い、紙切れをゴミ箱に捨てた。
高校一年の間、私は耐えるだけだった。それ以外、できなかった。
電車が駅に着く。私は目を開き確認する。降りる駅は次だ。
また目を閉じた。
何度思い出すのだろう。これからも事あるごとに思い出すのだろうか。
高一の秋。休みの日の午後に私は犬を連れて遠くまで歩いた。来たことのない公園に着いて休んでいたら、スケボーをするクラスメイトの男子にばったりあった。思いがけず目を逸らした私に声を掛けてきた。
「あれ、カワクボさんって家この辺なの?」
「ううん。ちょっと遠い」
「オレんちもちょっと遠いんだ」
「うん」
「しっかし、カワクボさんってカワイイなぁ」
「え?」
「クラスの男子はさ、ホントは皆カワクボさんと話しとかしたいんだよ」
そういうと、スケボーを走らせて行った。その後ろ姿が印象深く残っている。
「カワクボさんも飲みなよ」
その出来事から何日かした放課後。文化祭の準備でクラスが忙しい中、ベランダにいた私に、ある男子生徒が缶コーラをくれた。やり取りはそれだけだった。だけど、今、そんな思い出がふっと蘇ってきた。私は嬉しかったんだ。
目的地の駅に着く。再び目を開けた私は少し涙ぐんでいた。それを気にも掛けず拭って電車を降りた。
駅を出た私は着いた事を知らせようと姉の携帯に電話をした。けど、繋がらなかった。買い物だ。今、車でも運転している最中なんだ、と勝手に決めつけ、私は姉のマンションに向かった。
元々散歩は嫌いじゃない。それに加え、知らない街だからなのか、電車に乗っているときの落ち込みは消えて、地面から少し足が宙に浮いた感覚を楽しんで歩いた。
似ているマンションが近くに立ち並ぶから迷うかも知れないよと言われた通り、迷った。それも計算の内と、私は通りがかったランドセルを背負った女の子に話しかけた。迷ったら誰かに聞く。そしてたどり着く。私はそうしようと昨日から考えてきたんだ。
「あ、これウチのマンションと同じトコだよ」
「え?ホントに?」
「うん」
想像していた以上の答えをその女の子は与えてくれた。
「じゃあ、一緒に連れてってくれたりすると助かるんだけど?」
「うん、いいよ」
最初のコメントを投稿しよう!