桜のころ

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 姉は、はしゃいで料理をしていた。羨ましい気持ちになり、それを隠したくて、ベランダに出て景色を眺めたりした。 「私は誰? 誰なの? ねぇ、教えてよ」  そんな事呟いて、さっきのに影響されてるなぁなんて、笑った。  八時を過ぎて、お義兄さんの雅広さんが帰ってきて、夕食を食べた。その後、洋画を観た。姉の胎教なのかも知れない。私は映画の間中、すれ違った男性を思い出していた。もしかしたら、彼がいずみちゃんの兄かもしれない。あの階で降りるのだから、その可能性が高い。降りる彼と乗ろうとする私の目があった。彼は私をどう思ったろう。そんなこと考えたりしている。なぜだろう。彼の書き物を見たからだろうか。  和室に布団を敷いて、私は寝た。  眠りにつく間中も、考えていた。明日、逢えるかな、と。実は、私は悪巧みをしたのだ。彼の部屋に携帯を忘れてきたのだ。姉から電話を受けたあと、そのまま、机の上に置き忘れてきたのだ。だから、明日取りに行かなければならない。彼に逢えるかな。私を見たらどんな反応をするだろう。嫉妬されるほどの美貌を誇る私を見て、彼はどんな態度を取るのだろう。最後はほくそ笑み、私は眠りに落ちた。  三月七日。木曜日。  午前十一時。  この時間ならいるとしたら、休みである彼だけのはずである。姉の家のインターホンから、彼の家へ連絡する。案の定、応対に出たのは彼だった。 「何か御用でしょうか?」  冷静に努めた声が返ってきた。 「あの、川窪と言います。昨日、携帯をそちらに忘れたんです」 「え?」 「これから伺っていいですか?」 「えっと、どういうことですか?」 「いずみちゃんと知り合いなんです。それで昨日一緒に遊んで頂いて」 「え、あ、はい」  玄関のドアを開けたのは昨日見かけた彼だった。私を見て、動揺したような、してないような。 「携帯どこに置いたの?」 「あなたの部屋だと思う」  そう告げると、さすがに彼はあわてた様子で探しに行った。机の上とは言わなかった。彼には見つけられず、戻ってきた。 「どこにあるか見つからないんだけど」 「探してもいい?」 「うん」  もう、意外と普通みたいだ。状況の見込めたのかもしれない。私は彼の部屋に入り携帯を見つけた。 「いずみちゃんとここで、パソコンしたんだ」 「そっか」 「叱らないでね?」 「まぁ、いつものことだから」  その言い方に兄妹だなって感じだ。
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