桜のころ

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 毎日散歩のコースが同じ道ばかりだから退屈なんじゃないかと思えて、ちょっと遠くまで行ってみようという気持ちになった。それがウニにも伝わったのか、いつもとは違う道を歩き出したら、私を引っ張るように前を歩き出した。しっぽを振っている。変化は時にモチベーションをあげてもくれるんだ。  そして、私はいつかの公園まで歩いた。来て見たくなったんだ。まだ寒さも残る公園にはさすがに誰もいなかった。寂しく思えた。自販機でお茶を買おうと硬貨を入れ、ボタンを押そうとした時、視界に入ったココアが無性においしそうに感じられて、思わずそれを押してしまった。出てきたそのココアの温かさを確かめようとするとピロピロと鳴り出した。当たり付きの自販機だった、と頭を過ぎるのと同じくらいにピーと鳴り出した。まさか当たったの?確認の意味でまたココアのボタンを押すとゴトンともう一缶が受け口に出た。これってラッキーなんじゃない。でも冷静に考えるとココア二つも飲めないことに気づく。それでも何だか日常のちょっとした嬉しい事には違いないのだからと私はコートのポケットに入れた。  ベンチに座ってココアを飲みながら、今のこの事を秀之君へのメールに書いてみようかなぁなんて考えて笑みが出た。  恋がしたいのか。それは違うとは言わない。でも、それだけではない。私はもっと誰かと関わりを持ちたいんだ。深く付き合いたい。私を知ってほしい。あなたを知りたい。考え方。感じ方。なぜそう思うのか。教えて。私にも聞いて。そう。正面から向き合って話がしたいんだ。  秀之君に急にまた会いたくなった。    三月二十八日。木曜日。  私は電車に乗っていた。  今度の目的は秀之君会うためだ。誰にも言ってない。秀之君にも。電話やメールでも今日行くって事は秘密にしておいた。急に行って彼を驚かせたいんだ。  午後の三時頃駅に着き、私は意気揚々と歩いた。  マンションの前に着き、一呼吸付いてから彼の家の番号を押した。応対に出たのはいずみちゃんであった。 「あ、この前のお姉ちゃん」 「久しぶりだね」  いずみちゃんの声は弾んでいた。 「どうしたの?」 「うん。お兄さんいる?」 「お兄ちゃん?」 「うん。いる?」  いずみちゃんから少しの戸惑いが感じ取れた。そりゃそうだ。 「あ、今日出かけてるんだ。」 「え、そうなんだ」 「うん」 「すぐには戻らない?」
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