序-prologue-

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20XX年――今日ここに集いしは、茂葉芸術大学付属高校、通称モバゲー高のOB達、つまりここで行われているのは同窓会であるが、その会場はどこにも存在しない。  存在するのは、電子仮想空間の中である。モバゲー高の同窓会が何故ここで行われているのかと言えば、同窓会を企画した蓬田 輝井流渡(ぼうだ ふぃいるど)がそのVR技術を用いた同窓会当日発売のファンタジックMMORPG【カオス・クラウド・クリスタル】、通称CCCの開発者の責任者でもあったからだ。 CCCはゲーム史上初のVRMMORPG(多人数参加型バーチャルRPG)で、プレイヤーはキューブリックと呼ばれるイヤホン型ウェアラブルコンピュータで、レム睡眠中にVR世界に神経接続する。つまり、夢がそのままバーチャル世界になるわけだ。 そしてプレイヤーは、幾つもの“層”に別れた中世風な世界を旅して、魔王を倒すのが主な目的である。  話は戻り、モバゲー高の同窓会の会場に設定された場所はゲームを始めた多くのプレイヤーが最初に冒険の拠点とする事になる古代ローマ風の“旅立ちの都”にあるコロッセオで開催されていた。それぞれ、かつての仲間達との談笑を楽しんでいる。  その中、かつて摩訶不思議な異世界体験をした元文芸部員5人の1人、白井紅露は、二つ結びにした黒髪に青と金のオッドアイのアバターに、黒いドレスに悪魔風な翼を生やし、銀縁眼鏡という姿をしていた。 「え? ダサイノさんそんなにキューブリック嫌がってたんですか?」 「コイツ、同窓会がここに決まるまでキューブリックはおろか、スマフォも持ってなかったんだぜ? 就職してガラケー買って、そのまま使い続けてたんだってよ」 「いいだろ別に……」  ダサイノも元文芸部員。男性としては普通の長さのダークブラウンの髪をラフに七三分けにした痩せ型の白人男性のアバターに、襟無しのボタンシャツにオリーブ色のベストという一見NPCと見紛うような目立たない服装をしている。 「そう言えば、先輩達も来るって言ってましたよね?」 「田嶋先輩までキューブリック持ってるとは……あ、自衛官だから当たり前か」  そう、今日は二次会として文芸部員も集合する事となったのだ。田嶋先輩こと田嶋 主計は時代劇作家を目指していたが、何故か現在は陸上自衛隊に入隊しているらしい。 旅立ちの町のどこか――古代ローマ風の町並みに不釣り合いな和服を着た男が2人と、アカロリ系のケープ付きドレスを着たウェーブのかかった茶髪の小柄な女性が歩いていた。
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