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恐らくこれは夢で。目覚めたら何事もなく、喋る黒鴉なんて存在していなかったかの如く、また平凡な日常が戻ってくるのだろう。
だったら、夢の中でくらい。僕はいつもとは違う日々を歩みたい。
逆に言えば、夢だからこそ、こんな願いを、こんな不気味な黒鴉に対して冷静に伝えられているのだろうけれど。
明晰夢よ。もうしばらく。醒めないでくれ。目覚めないでくれ。
『ふむ。よろしい』
スッと。いつの間にか、黒鴉は電柱から降り立ち─正確には、雲が晴れて、僕の足元に生まれた影の上に降り立ち、そしてこちらを睨みつけていた。
その不気味な三本の脚で─僕の『影』を『踏んでいた』。
『では、契約はこれで完了だ。非日常を。非現実を。醒めない夢を楽しむがいい』
そう言って、黒鴉は消えた。
一瞬。瞬きをしたその一瞬に、その黒鴉は居なくなった。
飛び立った気配もなく、立ち去った気配もなく。
まるで僕の影と一体化したように、これもまた不自然に消えていた。
「…さて、どうしたものかなぁ」
僕は、ずっと止まっていた足を、やっと動かした。
そして、再び帰路につく。
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