忘れ物

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「お兄ちゃんの携帯は知らないけど、お兄ちゃんの忘れたものは多分……知ってるの」 意味のわからないその言葉に俺は首を捻った。 「何を」 「よく思い出して、ここに来る前のこと。そしたらきっと、見つかるから、お兄ちゃんの……行く、ところ」 行く……ところ?何を言って……。 そう言いかけて、その目のあまりの真剣さに思わず口をつぐんだ。 ……だから俺は携帯を探しに戻ってきたんだって。 クソ暑い中、もう一回坂の上に取りに行くのが面倒で、極力近道しようって信号のないとこを渡って……渡って? 俺、渡ったっけ? 何故かそんな疑問が湧いた。 確かハザードたいて停まってるトラックの横から車が通り過ぎるのを待って、急いで渡ろうとして……そしたら……バイクの……ライトが、見えて── ……ああそうだ、思い出した。 俺はあの時、跳ねられたんだ。 じゃ『俺』は何? そう思ってふと掌を見てみれば目に映ったのは、赤い色。 汗に濡れたと思っていたTシャツも、俺の血で赤黒く染まっていて。 ……そっか。 幽霊だったのは……死んでいたのは……俺、自身……。 そう、理解したんだ。
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