忘れ物

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「美夜(ミヤ)!」 ブランコの前でぼーっと立っていた私に、お母さんが走ってくるのが見えた。 「もー心配したのよ!?大丈夫だった!?」 そう言ってぎゅっと抱き締めてくるお母さんはいつもの匂いがして、やっと心からほっとしたの。 ──怖かった。 昔から私には皆に見えないものが見えた。 あの血まみれのお兄ちゃんがここに来た時は本当に怖かった。 見ないように……見えてるのを気付かれないようにって俯いた。 なのにあのお兄ちゃんは凄く普通に喋りかけてきて……ああ、この人気付いてないんだって、思った。 どうしたらいいかわかんなくて返事をしてるうちに、おばあちゃんの言ってたことを思い出したの。 私のことを唯一理解してくれた、おばあちゃんの言葉を。 『突然死んでしまった人の中にはね、死んだことを忘れてぐるぐる同じことを繰り返す人がいるの。そういう人は誰かが導いてあげないといけないのよ。でないとその人はいつまでも行くべき場所に行けないの。怖がらないで、貴女ならきっと出来るんだから』 怖かった。 怖かったけど、お兄ちゃんの笑顔は優しくて……初めて助けてあげたいって、思ったの。 「さぁ美夜、早く帰るわよ」 お母さんがそっと私の手を取る。 「……うん」 もう公園には誰もいない。 でも、確かに私は聞いたの。 『ありがとう』 お兄ちゃんの、声を。 ──これが、私が私に向き合った、初めてのお話。
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