当代の両翼

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 柊と清乃には感じられず、朽葉と卯月に感じられる何か――  それは、柊の胸を痛める。妹達と母を守るのは、私。そう決心して、たった一度娘達の前で涙を流した母に付き従い、この屋敷まで来た。  この屋敷に来てから、朽葉と卯月は時折このような表情を見せるようになった。けれど、母はここなら安全なのだ、と言っていた。涙を流しながら、それでも強く言った母の言葉の何を疑え、と言うのだろう。  あのような母は柊の知る限り初めてだった。決して娘達の前では泣かず、怒る事は有ってもすぐに笑顔を浮かべていた母。父達と別れても泣いた事が無かった母が――  だからこそ、住んでいたアパートを出て、引っ越すと言った母に文句を言っていた清乃に、柊が初めて本気で怒ったのだ。  お母さんを困らせちゃ、ダメ!  と。いつもほわほわと笑っているだけの柊が怒った表情になったのを見て、清乃は泣きながら引っ越す事を承諾した。
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