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青年は、外聞など気に掛けない粗暴な手つきで反透明のビニール袋の中に薄汚れた服を押し込んだ。丸々と太ったビニール袋は、中身の形相を阿漕にかき集めたセール品へ変えた。そのビニール袋を腕にぶら下げ、踵の潰れた靴に爪先をかけて家を出た。恥辱を濯ぐために。
車がすれ違うのも苦労してしまいそうな、歩道もない道路を照らす為に置かれた街灯の灯りは、自己主張の激しい壁の落書きさえも浮かび上がらせている。
その一方で、仕事を放棄した街灯も散見でき、光の及ばぬ翼下の外に足を踏み入れた。
暗澹とした景色は、輪郭を仄かに捉えることすら些か難しかった。だが、この地に土着している青年にとってそれは見慣れた光景で、思慮に至らずどこに何があるのかはわかっていた。
閑散とした町は、道草を食う猶予も与えてくれないほどくたびれているようにみえた。しかし、時折香ってくる様々な料理の匂いが、憂いは杞憂だったことと、廃れきっていないことを知らせてくれた。
脇道から出てきた車が、闇を切り裂きながらこちらに向かって走ってくる。
狭い道だ。対向車に来ていることを知らせるようにライトを上に向けていた。そのせいで視界は白く飛ばされ、青年は忌まわしそうに目を細める。
車が横を通りすぎようとすれば、すかさず運転席を睥睨する。が、ボブカットをした可愛らしい女性の横顔を見た瞬間、下がっていた瞼を上げて三白眼を形成し、ばつを合わせる。
しかし、女性は青年に一瞥をくれる様子もなく、通りすぎていった。
残滓の如く残った青年の惨めな姿。青年はひとしきり自嘲に耽ったあと、止まっていた足を再びコインランドリーへ運ばせる。脳裏を過ぎるほんの数分前の出来事が、足をせき立てた。
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